疾走

長文ポエマー密室バンギャル

快晴と落葉









昼過ぎに車を洗ったついでに前部署に顔を出した帰り、国道に出る道すがらにフロントガラスを落葉が舐め、そう言えば秋だったなと思い出した。エアコンの温度を下げて風量を強くした車の外は雲一つない気持ちの良い秋晴れで、それはそれは一瞬を切り取った写真のように眩しく、常緑樹ではなく落葉樹を植えた行政に初めて感謝をした。

小さい頃から人と馴染むことがあまり得意ではなかったので、というより得意ではないほどに自我と自意識が強かったので、前の部署とその前の部署で一緒にご飯に行ったり誘ったりしてくれる人が出来たことにものすごく驚いたし喜びを感じた。友達がいなかった経験は特に無いけれど平穏無事に過ごしてきたともとても言えないので、自分みたいな人間は嫌われて然るべきだという呪いが今も解けていない。嫌われるのはいつだって怖いけど。ただ好いてもらえるのも同様に怖いことだと感じてしまう。正気に戻らないでね。

わたしがいなくても何事もなく回る世界と、初めて長く続いている友達の一人からのめでたい報せ。どちらも喜ばしくてなんとなく安心する。そしてそういう穏やかな回転から振り落とされている、或いはうまくそれに乗れない自分をとても無駄だと思う。

能動的に死のうとしたことはないし、メンタル系の医者にかかったことも不登校になったこともない。手首に刃物を当てたこともない。だけど唇の皮はボロボロで時々血まみれになるし、ふとしたときに睫毛や髪を抜いているし、指先は汚く絆創膏だらけで左手の親指は指紋がひらべったくなるほどに赤い。そうやってバランスを取っているのだ。でも、指先までつやつやな女の子にはもうなれそうもない。お前、もう少し大人にならなくてはな。

容赦のないいつもと変わらない現実が、そこから続く大して明るくはなさそうな未来がただただ恐ろしくて、無性に音楽の話がしたくなって深夜に歌詞カードを並べてみる。あの頃はなんとも思っていなかった曲を今時分に聴いてとても悲しいと思った。再録や続き物といった更新を好まないのは、そのとき「僕」しかいなかった「僕」が、いつの間にか「僕」と対話する僕になりかわっていることが多いからだ。否定も肯定もされないままにそこに在ってくれよ。主人公を突き放すこと、解き放つこと、現在が過去に語りかけること、もう当事者ではなくなってしまうこと。悲しいと、しょうがないとしか、わたしにはまだ思えないから。
雨に閉じ籠る若さが雨で開かれる静けさになることを、理解は出来ても、今も頷けないでいる。
どうか音楽だけは、わたしを独りにしないでよ。

わたしはこの先が怖いよ。今よりもずっと向こう見ずで馬鹿だった頃、何かを好きでいることも一人でいることも死んでいくことも物語に味をつけるスパイスみたいなものだとしか認識していなかった。だけど物語が物語ではなくただの現実でしかないと理解した頃、特に好きなものはなくなっていたし、一人でいることはいつの間にか自分で選んでしまったことだったし、死ぬまでがあまりにも長くそしてとても時間がないと感じるし、味覚はそもそも機能なんてしていなかった。夢から覚めても、恋が終わっても、青春が死んでも、わたしは昼夜働き税金を払い飯を食い洗濯をし時にマガジンのマウンテンやボトルのリバーを作りそして片しながら生き永らえなくてはならないのだ。物語の中にはそういうテーマもあったけれど、やはり響くことはなくてろくに覚えてもいない。案外に役に立たないものだな。

時折無性に空しくなってせめて誰かと一緒にいればこの底冷えのするような孤独感は無くなるのかも知れないと思い至ることがある。だけどわたしは自分のことが嫌いなだけ人を受け入れることが出来なくて、呪いも解けぬままその呪いを他人にまで強いようとする。傲慢な自意識が自己への肯定否定好き嫌いをぐちゃぐちゃにミンチにする。正しい認識とはどうやって身につければいいものなのか。生きていてもしょうがないよな。誰の前でなら泣いていいのか。みんなそんなに泣かないのか。独りで泣いて独りで立ち上がるのか。世界は何事もなく回ってる。この歌はそういう世界をそれでも誰かと歩いて生きていく歌だろう。誰しもにそういう誰かがいるんだろうか。泣いても許される世界が。この孤独感を消してくれる人間がいるのであれば、出来ればその人と生きてみたい。

快晴と落葉。清々しく爽やかな秋の奥行きの、最も先の方に、仄かに厳冬の気配がする。真っ暗な白さでしっとりと乾いた、生命が停止する冬の気配だ。冷たい空気が頬を刺す一番好きな季節になったら、特急に乗って松本に行きたい。誰も何もわたしを待ってはいないけれど。いつかわたしもあの雨の曲のように、自らを傷つけようとする青さを収め、あの頃の「わたし」に微笑んで静かに対話をするようになれるだろうか。なりたいと、思うようになれるだろうか。














(♪:冷たい雨/続、冷たい雨/エムオロギー/素晴らしき人生かな?)